映画祭2日目、「たね」(原題 SEED: THE UNTOLD STORY)の上映を終えました。

1日目の「いただきます みそをつくるこどもたち劇場版」は、こどもたちの生命や食の力・豊かさを感じられる、あたたかい“希望”を感じられる映画でしたが、「たね」は、種子や食を取り巻く現状に“絶望”を感じる瞬間さえある映画でした。でも、その絶望の中にもキラリと輝く小さな希望を見出していく、そんな時間となりました。
かぼちゃ。
きゅうり。
とうもろこし。
名前を聞くと浮かぶ野菜の姿があると思いますが、元々はそれぞれ数百種類もあったそうです。今は多くてもそのうちの数十種類、少ないものでは数種類にまで多様性が減っている野菜もあります。
「元々はあったそうです」。映画を観た後なので、そう書くことの重みを感じます。失われた種の多様性は、もう戻ることはありません。
「固定種」「在来種」と呼ばれるその土地特有の種は、何年何十年と栽培・採種・播種を繰り返し、植物の中にその土地に合った性質が育まれたものです。時間をかけて、自然と人間の営みが生み出したもの。
また何十年という営みによって、その気候・土地に合った種を育むことはできるかもしれませんが、数千年に渡って人類が守ってきた種と同じものは生まれない。野菜の種の多様性の94%が失われてしまった、という統計もあります。
このことは、とても重い現実だと思います。
映画では、種と、種に支えられる人の営みを守るための取り組みも紹介されています。
「シードバンク(種子銀行)」は種を保存する施設や組織。世界的に有名なのは、2008年2月、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の主導によって開設された「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」。最大300万種の種が保存可能で、核兵器にも耐えられる構造を持っています。

世界には既に1400ほどの種子銀行があり、その多くは国立で各国の作物の種子を保存しているそうで、日本にも公的な組織として「農業生物資源ジーンバンク」がある他、地域の種を保存する活動をする取り組みが各地にあるようです。しかし、「遺伝子資源の多様性を守る最も確実な方法は、農民が現実に多様な作物を作り続けること(出典)」だと言われています。保存するだけでなく、営んでいくことがやはり大切なのですね。
インドでは著名な環境活動家 ヴァンダナ・シヴァ博士が有機農業を推進する「ナヴダーニャ(9つの種)」という団体を1987年に設立。それぞれの地域に合った伝統的な種子とその知識を集約し、それを農民たちに提供しているそうです。
シヴァ博士は「シード・フリーダム運動」を立ち上げ、「大自然の恵みである種子が世代を超えて生き続ける自由や、農民が種子を保存し、まく自由、私たちが何を食べているのかを知り、遺伝子組換えを拒む自由を守ろう」と世界中で講演をされている方です。
「グローバリゼーションに対抗するためには、まず、私たち一人ひとりが、大地の家族の一員であることに気づく必要があります。食べ物は自然からの贈り物。私たちは食べ物を通して、大地や水、空気とつながっている。それを育てている農家とつながっている。経済価値を中心とする生き方から、そうした大地とのつながりを大事にする生き方へとシフトすることが第一歩ではないでしょうか」
「都市のなかでも、あるいはマンションみたいなところに住んでいる方も、ぜひ、鉢で植物を育ててみてください。たねが、土が、植物が、あなたの先生になります。その先生があなたに、そもそもの大地とのつながりを思い出させてくれるはずです」
種の多様性を失うことは、予測できない自然環境の変化に対応できる可能性を小さくするということ。同じような特性を持った作物は、形が揃う良さがあるとともに、気候や病気といった要因で一気にやられてしまうことがあります。
- 「数十年に一度の豪雨が何度も降る」「“観測史上最高気温”が更新され続ける」といった気候の変化が明らかで。
- 人工的な物質も含め、環境中の物質組成が過去にない状態にあるとともに、薬剤に耐性のある細菌も生まれていて。
- 地球人口は過去最高を更新し続け食糧の需要が一層高まることが目に見えている。
自然環境の変化をもたらす要因が他にも無数にある中、種の多様性を減らすことは良い手ではないと、感覚的にも感じられます。
種にまつわる今の世界の状態は、私たちの当たり前の暮らしがつくり出し、維持・推進しているもの。種と私たちの距離はすっかり遠くなってしまいましたが、その大切さを深く感じ、生きていく上で「たね」の存在の優先順位を高めたいと思える映画鑑賞の時間でした。
上映後、2018年の日本における種子法・種苗法にまつわることと、種がおかれている今の状態の中で私たちにどんなことができるんだろう?ということをテーマに、鹿児島市で自然農法の実践・普及に取り組む橋口創也さんから短くお話をしてもらいました。
私たちが種と営み、守っていくためには、悲観からの動機だけではなく、種がもたらす恵みとその喜びを私たちが実感していることが大切。昔とはまた違った形かもしれないけれど、種と人との営みを取り戻すことが根源的な前進の一つなのだろうとあらためて感じました。
「たね」は先行上映のみでしたが、同様の趣旨の映画「種子 -みんなのもの? それとも企業の所有物?」は9月7日・9日の2日程で上映します。ご覧いただき、実情を共有できればと思います。
▼ヴァンダナ・シヴァさんの活動・メッセージ
「たねの支配を、許してはならない」―環境活動家ヴァンダナ・シヴァ博士|KOKOCARA -
http://kokocara.pal-system.co.jp/2015/02/09/seed-vandana-shiva/
* 残りの映画上映スケジュールはこちらから
* 橋口創也さんのHP:小さな暮らしの 畑屋さん - http://www.notefarm.info/